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臓腑 [東洋医学の基礎知識]

5 肝(肝胆) 肝の生理作用や病理は、その附属の臓腑である胆に常に及びます。そのため一般的には両方を一緒にして紹介します。   (1)肝胆の生理作用 肝の中心的な生理作用には「疏泄」と「蔵血」があります。 まず疏泄ですが、これには疎通や発散などの意味があり、その作用は体内の流れや生理機能がスムーズに行われるよう調節することです。その対象としては、大きく精神・消化・気機の3つの方面があります。このうち、精神面に関しては心神の機能の調節に働きます。消化に関しては脾胃の運化機能の調節が主ですが、このほか胆に作用して、胆汁の貯蔵と分泌を調節します。気機とは、気の機能活動をもとにして行われる全身各所の生理活動をいいます。 肝の疏泄は、長期にわたるストレスや激怒および緊張などで失調します。疏泄失調が精神面におよぶと、イライラして怒りっぽい・精神の抑鬱などが現れます。消化関係におよぶと、ストレスに伴った食欲不振・悪心嘔吐・胃痛・便秘や下痢などのように、肝と脾胃機能の不調和による症状が現れます。気機の調節におよんだときに最もよく見られるのが、経絡気血の循行障害です。とりわけ肝胆の経絡の循行部に影響が強く出るため、偏頭痛・脇腹の脹痛・婦人の生理前の乳房脹痛などが多く見られます。また、力みや過緊張が経筋(経絡の筋組織)に影響すると、筋肉のこわばりやひきつりが現れます。このほか、一般に不定愁訴と言われるような症状は、気機の失調が全身各所に影響したものです。 次に肝の蔵血ですが、血を貯蔵して、全身の血量を調節する作用をいいます。脾で作られた血を貯蔵しておいて、月経などで出血があると供給し、全身の血量が過不足を起こさないよう調節しています。したがってこの作用が失調すると、いわゆる血虚の症状が現れますが、とりわけ肝が関係する目(肝の開竅部)や筋肉および婦人生理に強く現れます。 このほか、胆は「キモ」とも読むように、精神力を支える作用(「胆は決断を主る」という)を有します。   (2)肝胆の病証タイプ 肝胆の主な病証タイプには、実証に属す「肝気鬱結証」「肝火上炎証」「肝胆湿熱証」と、虚証に属す「肝血虚証」「肝陰虚証」「胆気虚証」、および虚実挟雑証(虚証=肝陰虚と、実証=肝火上炎が入り混じった病証)に属す「肝陽上亢証」があります。   肝気鬱結証:過剰あるいは長期におよぶストレスや緊張が原因し、肝の疏泄作用が失調することによって起こる病証です。主な症状には、気持ちが鬱積することによるイライラ・精神抑鬱・怒りっぽいなどの症状と、気滞による脇腹が張って痛む・女性では生理不順や生理前の乳房脹痛などの症状、および口が苦く感じる・ため息をよくつくなどがあります。   肝火上炎証:「カーッ」と激怒して「頭に来る」というのは、中医学的には肝火が頭に上昇することを言い表すもので、これによって病的な状態に陥ったものを肝火上炎証といいます。激怒以外にも、長期に渡るストレスで肝気鬱結が熱化すると起こります。したがって主な症状には、肝胆に関係する部位の熱症状である目が赤い・偏頭痛・めまい・耳鳴り・突然の難聴などと、上述の肝気鬱結証の症状とが複合して現れます。   肝胆湿熱証:飲酒や油物の偏食などで脾胃に湿熱が内生し、これがストレスなどに乗じて肝胆に注ぐことによって起こるタイプです。主な症状には、黄色い目やにや耳だれが出る・口が苦く感じる・陰部の痒み・帯下・ストレス性の頻尿などがあり、ひどいと黄疸が見られます。   肝血虚証:元々やせ型の人は陰血不足の体質とされますが、こうした人が疲労や食事の不摂生を続けたり、肝臓の慢性疾患で血が損耗したり、あるいは女性では出産や月経過多などで出血が多くなったりすることで起こるタイプです。主な症状には、目のかすみや乾き・めまい・爪がもろく色が淡くなる・筋肉のひきつり・月経の遅れなどがあります。   肝陰虚証:本証は肝血虚証に虚熱が加わった病証であるため、めまいや筋肉のひきつりなどの肝血虚証の症状が、入浴などで温まった後や疲れた日の夕方から夜間に現れやすくなります。ただし月経不順は逆に早まります。また、虚熱によって目が充血したり頭頂部の熱感を伴った頭痛が現れたりすることもあります。   肝陽上亢証:肝火上炎証と肝陰虚証が入り混じって現れるタイプですが、平素はどちらかというと肝陰虚証の割合の方が多く、感情が高ぶったり春先になると肝火上炎証の割合が多くなるのが一般的です。また年齢的には、若いうちは肝火上炎証の割合が多く、加齢に伴って肝陰虚証の割合が多くなる傾向にあります。   胆気虚証:精神的な疲労によって胆の気が損傷されて起こるタイプです。主な症状には、おびえ・不安感・驚いたり恐怖を感じたりしやすい・不眠多夢などがあります。   ほかに一般的な全身症状については、気血津液の気滞証・痰湿証・血虚証・陰虚証・気虚証の各々の項を参照してください。   めまい・ふらつき・筋肉の痙攣やひきつりなどは、風が樹木を揺らすのに見立てて「風の症状」と言われます。これらの症状を起こす原因が体内にあるものを「内風=ないふう」と呼びますが、内風の多くは肝の失調で現れるため「肝風内動=かんぷうないどう」とも呼ばれます。内風による症状には、このほか半身不随のような麻痺などがあり、現代医学でいう貧血・癲癇・脳循環障害・パーキンソン氏病・チック症等で出現する症状は、みな内風と考えます。 以上のことから、肝病証の病状の中で、特に内風に関連する症状が強い場合は、その病証を内風の分類で言い表すことが一般的です。内風の分類には、肝火上炎証が起こす「熱極生風」、肝陽上亢証が起こす「肝陽化風」、肝血虚証が起こす「血虚生風」、肝陰虚証が起こす「陰虚内風」があります。  

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