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婦人科疾患 [貴方の病気のタイプ]


5 更年期障害

基礎知識のカテゴリにある「女性の一生と身体の変化」のところでも紹介しましたが、一定の年齢になると、男女とも先天のエネルギーである「腎の精気」が衰退し始め、次第に生殖のエネルギーである「天癸(=てんき)」を生産できなくなります。女性では、それが50歳前後で起こって生理が途絶える「絶経」を迎えますが、このこと自体は通常の生理的な状況であるため、病的なものでも何でもありません。

しかし、このときに先天のエネルギーの衰退のしかたがアンバランスであると、陰陽の失調が生まれやすく、これによって様々な不快な症状が現れるのがいわゆる更年期障害です。

 

1) 更年期障害を起こす陰陽の失調

先天のエネルギーである腎の精気は、腎精と腎気に分けることができます。腎精の中でも冷却の能力をもつ部分を腎陰といい、腎気の中でも温める能力をもつ部分を腎陽といいます。この腎陰と腎陽は、先天の陰陽とされていて、人体の根本的な部分の陰陽の調和に関わっています。更年期では腎陰も腎陽も次第に衰退していくわけですが、そのバランスの悪さから、相対的に腎陰の方が腎陽より少なくなると、冷却能力の不足から「のぼせ症状」を伴うようになってしまい、これを「腎陰虚証」と呼びます。しかし、これとは逆に相対的に腎陽の方が腎陰より少なくなると、温める能力の不足から「冷え症状」を伴うようになってしまい、これを「腎陽虚証」と呼んでいます。

 

腎陰の衰退 > 腎陽の衰退=腎陰虚証 ⇒ のぼせなどの熱症状

腎陰の衰退 < 腎陽の衰退=腎陽虚証 ⇒ 手足の冷えなどの冷え症状

 

冷えやのぼせのほかに見られる症状としては、腎陰虚証では、過度の発汗・手足のほてり・大便が乾燥して便秘しやすいなどがあり、腎陽虚証では、足腰が冷えて痛む・頻尿や失禁・性欲の減退などがあります。また、腎陰虚証の更年期特有の症状として、皮膚の乾燥や痒みや蟻走感(皮膚を蟻が這い回るような感覚)を覚える人もいます。

 

2) 陰陽の失調の進行

更年期障害を起こす老化(衰退)は腎陰虚証や腎陽虚証にとどまらず、失調の進行が起こります。これには大きく2つあり、1つは腎陰虚証と腎陽虚証の混雑で、もう1つが他の臓器への影響です。

まず1つ目の内容ですが、腎陰の衰退と腎陽の衰退のアンバランスは、通常ではどちらか一方が起こるのですが、人によっては上半身と下半身とで異なるアンバランスが起こることがあります。よくみられるのが、上半身ではより腎陰の衰退が進んだ腎陰虚証が発生し、下半身では腎陽の衰退がより進んだ腎陽虚証が発生するというもので、この場合にはいわゆる「冷えのぼせ」という症状が現れます。因みに、この複雑な病証は「腎陰陽両虚証」と呼ばれます。

次に他の臓器への影響についてですが、腎陰虚証から発展するものと、腎陽虚証から発展するものとでは異なります。腎陰虚証からのものは心や肝への進展で、腎陰の冷却能力の不足が、心や肝の熱の亢進を抑えることができないことによるものです。肝の熱の亢進を伴う人は、めまい・耳鳴り・高血圧などが起こります。心の熱の亢進を伴う人は、動悸・寝つきが悪く夢が多いなどの症状を伴うようになります。これに対し、腎陽虚証からのものは脾への進展で、腎陽の温める能力の不足が脾にも影響して、脾の冷え(脾陽虚証という)を伴うようになってしまうもので、この場合は食欲不振・むくみ・軟便や下痢などの症状を伴うようになります。

 

3)中医学による更年期障害の治療

中医学の特徴の一つに未病治療がありますが、更年期障害の治療にとってもそれが最良の方法に含まれます。例えば、「自分のお母さんがひどかった」「普段から生理不順や生理痛がひどい」「難産や産後の肥立ちが悪かった」といった人は、更年期障害に悩まされる確率も高いわけですから、一定の年齢になったら、腎の陰陽バランスを調節するように、東洋医学の専門家の診察を受けてみるのも良いでしょう。

そして、もし腎陰の不足が多目だとわかった人は陰血の補充を行い、腎陽の不足が多目だとわかった人は陽気を温補するようにして、絶経を迎える準備(場合によっては養生指導をしてもらうとよい)をしておくと、更年期障害は比較的軽度ですみます。

では次に、実際に更年期障害の症状が出てしまっている人の場合ですが、この場合は養生では解決しませんので、つらく感じる人には専門的な治療をお勧めします。

基本的な治療は、腎陰虚証か腎陽虚証の判別を行ってこれに対応することですが、できうれば婦人科の調整に欠かせない「衝任脈の調節」にも効果のあるツボや生薬を含んだ処方にした方がいいでしょう。また、もし陰陽失調の進行がみられる場合は、それを考慮したものに処方をアレンジするとよいでしょう。(実際の治療方法は、鍼や漢方薬の治療を見てください)

  

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