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気血津液 [東洋医学の基礎知識]

(5)気血津液の実証(気血津液の代謝異常による病証) 気血津液の実証は、気血津液のどれかまたは複数が人体に悪影響を及ぼす物質に変化してしまったことによる病証です。この病的な物質は「病理物質」といわれ、その代表が代謝異常によって発生する「滞り」です。気血津液の滞りは、それぞれ「気滞=きたい」「瘀血=おけつ」「痰湿=たんしつ」とよばれ、その病証は「気滞証」「血瘀証」「痰湿証」と呼ばれます。 これらの滞りは、体内に鬱積する過程で熱化する(「化火」という)ことがあり、熱化した病証は、それぞれ「鬱熱証=うつねつしょう」「血熱証=けつねつしょう」「痰火証=たんかしょう」または「湿熱証=しつねつしょう」と呼ばれます。   (6)気血津液の実証が起きる原因 気血津液の滞りが起こる原因には、滞りを誘発する生活習慣と、それぞれの運行に関与する臓腑の働きの減退や失調があります。 気滞は、ストレスや怒りや緊張が長期に及ぶか過剰になると起こります。このとき、肝の持つ「疏泄=そせつ」という、気をスムースに流すための働きが失調するため「肝気鬱結=かんきうっけつ」ともいいます。 瘀血は、運動不足や長時間同じ姿勢でいる人に起こりやすいほか、冷えなどによって血行が悪くなることで起こります。長距離ドライバーに多い痔などは、これによるものです。臓腑的には心肺の気が不足して、血行を推進する力が衰えることによっても起こります。また、気自体が滞って、血行を推進できなくなっても起こりますが、このときは気滞に加えて瘀血が起こるので、「気滞血瘀証」と呼ばれます。 痰湿は、水液の代謝を行っている臓腑(肺・脾・腎)の働きが衰えるか、これに負担がかかると発生します。肺に負担をかけるのは、多くは感冒で、一般的には痰の多い咳になりますが、これがこじれると慢性的な痰湿証に移行します。 脾(現代医学の脾臓と異なり、消化吸収の中心的な臓器とされる)に負担をかける代表が飲食物です。飲食物のうち「生もの」「冷たいもの」の摂りすぎは冷えた痰湿である「寒湿証」を起こし、「脂っこいもの」「甘いもの」「味の濃いもの」「お酒」の摂りすぎは熱性の痰湿である「湿熱証」(または「痰火証」)を起こします。もともと胃腸が弱かったり、慢性的な胃腸疾患がある人は、脾の働きが衰えていることが多く、こうした場合でも痰湿が生まれやすくなります。 腎については、負担をかけるものというのはあまりなく、「腎虚=じんきょ」という腎の衰えが中心となって、水分代謝の減退が起こります。腎虚は、発育不全や加齢および慢性的な泌尿器疾患などが原因となります。   (7)気血津液の実証にみられる症状 気血津液の実証で現れやすい症状は、病証を起こす原因に関係するものと、それぞれの滞りが起こすものが含まれます。このうち滞りによる症状の中で、最も一般的に見られるのが痛み(比較的激しいもの)で、ほかにしこり(腫塊=しゅかい)があります。 1)気滞 気滞の症状のうち、原因に関係するものには、ストレスに伴って①イライラしたり怒りっぽくなる、②あるいは精神が抑鬱するなどあります。このほか③口が苦い、④脇腹が脹る、⑤生理不順、⑥生理前に乳房が脹るなどが見られます。これらは肝の疏泄が失調することによるものです。舌の特徴は、白っぽい舌苔です。 気滞による痛みは、脹るような痛み(脹痛)や放散するような痛みで、痛む場所が移動したりします。気滞による腫塊は、比較的軟らかいものが日によって少しずつ移動し、現れたり消えたりします。 2)瘀血 瘀血の症状のうち、原因に関係するものには、①顔色につやがなくドス黒い、②悪い部位の皮膚表面が黒ずんだり、かさついてザラザラする、③女性では月経血の色が黒っぽくなり、血の塊が増えるなどがあります。舌の特徴は、舌質の色は暗紅色(暗く紫がかった色で紫暗色ともいう)で、さらに舌の裏側にある血管が黒く太くなるかあるいは黒っぽい斑点(瘀斑=おはん)が見られるようになります。これらは血行が悪くなることによるものです。 瘀血による痛みは、刺すような痛み(刺痛)で、痛む場所は動かずに固定しています。また、寝ている間に痛む夜間痛が出たりします。瘀血による腫塊は、硬いものが同じ位置に動かずに現れます。 3)痰湿 痰湿の症状のうち、原因に関係するものには、①胃部のつかえ感、②胸苦しい、③悪心や嘔吐、④便がべとついて軟便になる、⑤むくみやすい、⑥女性ではおりもの(帯下=たいげ)が多い、⑦普段から痰が多いなどがあります。舌の特徴は、厚くねっとりとした舌苔(膩苔=じたい)です。これらは脾の水液代謝の働きが失調し、痰湿が停滞することによるものです。 痰湿による痛みは、重い感じの痛み(重痛)で、痛む場所は動きません。また、原因の項目で述べた飲食物の摂りすぎで悪化しがちです。痰湿による腫塊は、気滞や瘀血と結びついて現れるものが大半です。気滞と結びついて現れるものでは、のど元に起こる「梅核気」と呼ばれる梅の実大のつかえ感が有名です。  

病証

症  状

原因に関係する症状

痛み

腫塊

1)気滞証

①急躁易怒、②精神抑鬱、③口苦、④胸脇脹痛、⑤経乱、⑥経前乳房脹痛 脹痛放散痛 移動痛 軟らかい移動性 消出が頻繁 舌苔薄白または白

2)血瘀証

①顔色がドス黒い、②肌膚甲錯、 ③経色紫暗、有血塊 刺痛固定痛 夜間痛 硬い固定性

舌質暗紅or紫暗、瘀斑

舌下静脈怒張

3)痰湿証

①胃部のつかえ感、②胸苦しい、③悪心嘔吐、 ④泥状便、⑤浮腫、⑥帯下 ⑦平素から痰が多い 重痛固定痛 飲食物で増悪 気滞や瘀血と結びついて 出現

舌苔厚膩

 
  ※  表の中にある中医学の用語については、本文中の同じ番号を参照して下さい。  

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