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慢性疲労の漢方薬治療 [漢方薬の知識]
肺気虚タイプの虚労に対する漢方薬治療
中国の教科書で肺気虚タイプの虚労に用いる代表的な漢方薬は「補肺湯」です。しかし、日本のエキス製剤にはこれはありませんので、「六君子湯」と「麦味地黄丸」を組み合わせて用います。このとき一般的な肺気虚では比率を2:1程度にして、麦味地黄丸の割合を少なめにします。しかし、気陰両虚になっている人は麦味地黄丸の割合を増やしてください。
麦味地黄丸は、現在のところ中製薬と呼ばれる丸剤しかありませんが、厚労省が昨年新たに製造を認めたリストに入っているので、数年の後にはエキス剤として売り出される可能性があります。但し、これは一般薬になり、ツムラなどが出している医療用のものではないため、病院の処方箋では出すことができません。
もし、効果が出にくいようなら、煎じ薬を出している専門の病院や薬局から補肺湯を出してもらうとよいでしょう。
脾気虚タイプの虚労に対する漢方薬治療
中国の教科書で脾気虚タイプの虚労に用いる代表的な漢方薬には「四君子湯」と、内臓下垂を伴う人に用いる「補中益気湯」があります。
もし水分代謝の悪い人なら「参苓白朮散」や「六君子湯」、気血両虚になっている人なら「帰脾湯」を用いるとよいでしょう。
心気虚タイプの虚労に対する漢方薬治療
日本のエキス製剤で心気虚タイプの虚労に対応するには、「六君子湯」と「生脈散」を組み合わせて用います。但し、生脈散(商品名「生脈宝」など)という処方は、ツムラなどが出している医療用のものにはないため、病院の処方箋で飲むことができないばかりか、作っているメーカーも限られていますので、専門の薬局に問い合わせる必要があります。
腎気虚タイプの虚労に対する漢方薬治療
本来、腎気虚タイプの虚労に用いる漢方薬としては、その症状の中心が足腰のだるさの場合は「右帰丸」、頻尿や尿漏れの場合は「八味地黄丸」や「牛車腎気丸」、呼吸に影響している場合は「人参胡桃湯」があります。しかし日本のエキス製剤では「八味地黄丸」と「牛車腎気丸」しかありませんので、どの症状の場合でも多くはこれらを服用することになります。
ただし日本人は、中国の人に比べて胃腸が弱い人が多いので、胃腸があまり丈夫ではないと思われる人は「補中益気湯」といっしょに服用するといいでしょう。
このほかでは、「活絡健歩丸」という丸剤が市販されていますので、足腰のだるさが中心の場合は、これを試してみるのもいいでしょう。
心血虚タイプの虚労に対する漢方薬治療
心血虚タイプの虚労に用いる代表的な漢方薬には「炙甘草湯」があります。
もし、不眠が顕著な場合は、さらに「酸棗仁湯」を合わせて服用するといいでしょう。
また、食欲不振などの胃腸症状を伴う心脾両虚になっている人であれば「帰脾湯」にするとよいでしょう。
肝血虚タイプの虚労に対する漢方薬治療
肝血虚タイプの虚労に用いる代表的な漢方薬は「四物湯」です。もともと婦人科を調節する衝任脈にも作用するため、婦人科疾患を伴う場合も有効です。
もし、不眠を伴う場合はこれに「酸棗仁湯」を加え、不定愁訴を伴う場合は「逍遙散」を加えます。また、眼精疲労や目のかすみなどを強く感じる人は、「枸杞子(健康食品売り場でも買える)」を一緒に食べるといいでしょう。
心陰虚タイプの虚労に対する漢方薬治療
心陰虚タイプの虚労に用いる漢方薬には、陰虚を治療する生薬と養心安神薬というジャンルの生薬が配合されていなければなりません。日本で唯一、そうしたものが配合されているのが「柏子養神丸」です。ほかには、心陰虚に心火という熱症状が加わったタイプに用いるものになりますが、「天王補心丹」も応用できます。
しかしこれらは中製薬といわれる、中国から輸入した丸剤で、ツムラなどの処方箋で服用できるエキス剤ではありません。そこで病院から出してもらえるもので対応しようと考えると、「清心蓮子飲」に「六味地黄丸」を組み合わせて服用するのがよいでしょう。
肺陰虚タイプの虚労に対する漢方薬治療
肺陰虚タイプの虚労に用いる漢方薬エキス剤は「麦門冬湯」がポピュラーですが、慢性化してこじれていたり、熱が強まったりしていることも多く、「滋陰降火湯」「清肺湯」「麦味地黄丸」などを用いた方がより有効なこともありますので、そうした場合は専門家のアドバイスを受けてください。
胃陰虚タイプの虚労に対する漢方薬治療
胃陰虚タイプの虚労に用いる漢方薬エキス剤には、「麦門冬湯」があります。津液不足が大腸にも波及すると便秘を伴うようになることがありますが、この場合には「麻子仁丸」か「潤腸湯」などを合わせて服用するといいでしょう。
肝陰虚タイプ・腎陰虚タイプの虚労に対する漢方薬治療
まず、腎陰虚タイプ・肝陰虚タイプ・肝腎陰虚タイプのどの虚労にも無難に応用できるのが「杞菊地黄丸」ですので、細かい見極めが難しく感じる方は、これを覚えておきましょう。ただし、今のところ杞菊地黄丸は丸剤しかなく、エキス剤のような錠剤や顆粒のものはありません。また、病院で出せる保険薬には含まれませんので、漢方専門の薬局か薬店で購入する必要があります。
もし漢方薬エキス剤がよいのであれば、腎陰虚タイプなら「六味地黄丸」を用い、肝陰虚タイプまたは肝腎陰虚タイプには、さらに「四物湯」を合わせて用いるといいでしょう。
心陽虚タイプの虚労に対する漢方薬治療
心陽虚タイプの虚労に用いる漢方薬エキス剤としては、「附子人参湯」をベースにするとよいでしょう。
もし、精神症状が強かったり、精神的な要因で動悸しやすかったりする場合は「桂枝加龍骨牡蠣湯」をいっしょに服用します。加齢が進んで足腰が冷える(このタイプは心腎陽虚という)人は、「人参湯」と「八味地黄丸」を一緒に服用します。この場合八味地黄丸の中にも附子が配合されているので、「附子人参湯」から附子を除いた「人参湯」にします。但し冷えが甚だしいと感じる人は、附子人参湯でもかまいません。
脾陽虚タイプの虚労に対する漢方薬治療
脾陽虚タイプの虚労に用いる漢方薬エキス剤には、「人参湯」があります。それを使ってもなお冷える人や、手足の冷えが顕著な場合は、「附子人参湯」にします。附子人参湯を取り扱っていない場合は、「アコニサン」という名前で作られている「炮附子」を人参湯に加えることで対応できます。
加齢が進んで足腰が冷える(このタイプは脾腎陽虚という)人は、「人参湯」と「真武湯」を一緒に服用します。
腎陽虚タイプの虚労に対する漢方薬治療
日本で腎陽虚タイプの虚労に用いる漢方製剤には、「八味地黄丸」と「牛車腎気丸」しかありませんので、基本的にはこれを用いることになります。
「八味地黄丸」「牛車腎気丸」は、名前を見てもわかるように、本来は薬草をすり潰し、蜂蜜で丸めた「丸剤」です。蜂蜜は気を補って、胃腸を調える作用がありますが、丸剤は「中製薬」と呼ばれる市販のものしかなく、病院の処方箋で貰うことはできません。処方箋で飲める漢方薬エキス剤は、エキスにするために蜂蜜が入っておらず、胃腸が弱い日本人の中には、服用して胃もたれや下痢などを訴える人も少なくありません。こうしたことを理解したうえで、胃腸があまり丈夫ではないと思われる人は、丸剤を試してください。
これ以外のものでは、足腰の痛みやだるさが目安となる「活絡健歩丸」、精力減退が目安となる「海馬補腎丸」があり、どちらも丸剤で市販されています。
もし、食欲不振や下痢などの脾虚の症状があり、脾腎陽虚に発展していると考えられる人は「真武湯」を用いるといいでしょう。動悸などの心の症状があり、心腎陽虚に発展していると考えられる人は「八味地黄丸」に「人参湯」を組み合わせるといいでしょう。
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